「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第119話

第118話へ戻る


最終章 強さなんて意味ないよ編
<アルフィンの野望>



 イーノックカウの後方支援派遣部隊は壮行会の二日後、街の西入場門前で行われた出発式を経て、盛大に見送られながら出発した。
 この式典には私たちは参加してないし、当然派遣部隊にうちの子達を紛れ込ませたりもしていない。
 全てはヨアキムさんに任せて、私たちは一先ずこの戦争を忘れる事にしたんだ。

 だって、気にしていると何かやりたくなってしまうもの。
 でも此方が動けばそれだけリスクが高まるということだし、ヨアキムさんに渡したマジックアイテム以上の行動をしてしまうとそれが元で彼を危険な目に合わせるなんて事にも成りかねないから、忘れてしまうのが一番だと考えたってわけ。

 さて、いつもと同じ事をしていると経験となれで心に余裕ができるから、ふとしたタイミングで戦争の事を思い出しかねない。
 ではどうしたらいいか? 気になる事を忘れるには、それ以外のことに没頭するのが一番だよね。
 と言う訳で私は、前から計画していた事をこの機会に実行に移すことにした。



「当初の予定とは少し違っちゃってるけど、イーノックカウにお店を出そうかと思う」

 私はイングウェンザー城のいつもの会議室に自キャラたちとメルヴァ、ギャリソン、セルニアの3人を集めてそう切り出した。

 元々ロクシーさんがまるんに接触してこなければ、私は都市国家イングウェンザーの女王ではなく商業系貴族としてイーノックカウに向かうつもりだった。
 そしてそこで店を出し、商売を始める事によってゲームの頃同様、マーチャントギルドとしての活動を再開するつもりだったのよね。

 それがロクシーさんと出会って彼女の計略で皇帝エル=ニクス陛下と会う事になったり、イーノックカウにイングウェンザーの大使館を置く事になったりして、私はバハルス帝国内ではもうすっかり都市国家イングウェンザーの女王と言う立場が知れ渡ってしまった。
 だからもう私自身が商業系の貴族ですと立場を偽って商売をする事はできなくなってしまったけど、それでも私が店頭に立たなければ店を出すくらいはできると思ったのよ。

「あるさん、店を出すはいいけど何の店を出すの? パーティーで試していたみたいだから、やっぱりお菓子屋さん?」

 私のこの発言に真っ先に反応したのは、まるんだった。

「いや、カロッサ子爵のところでは装備を売るって言ってたから武器屋か防具屋でしょ?」

 それに対して、商材を何にするかと言う話をカロッサさんのところで話した事を持ち出してシャイナがこう返す。

 う〜ん、確かにその二つのどちらでもいいと言えばいいんだけど、両方ともちょっと問題があるのよねぇ。

「まるん、シャイナ。二人ともいい意見だと思うけど、そのどちらも少し問題があるのよ。まずお菓子だけど、うちの料理人が作るとなると毎回わざわざバフが付かないように作らないといけなくなるから大変よね。これが一度きりのパーティーなら問題はないけど、毎日大量に作るとなると負担が大きすぎるわ」

「そっかぁ」

 私の言葉を聞いて、まるんは残念そうな顔をする。
 甘い物好きのまるんの事だから、お菓子屋さんを開くのなら色々な新商品の試食ができると思っていたんだろうね。
 でもこの様な理由でお菓子屋さんと言う意見は没。

「次に武器屋や防具屋だけど、基本的にこの世界の装備は脆すぎるのよ。エルシモさんに前もって聞いたところによると、収容所を作るにあたって急遽有り合わせで職人たちに作ってもらった作業服、あったでしょ? あれってこの国だと冒険者の中でも比較的上位のクラスである、オリハルコン級以上の冒険者じゃないと買えないくらいの高級装備と同等かそれ以上の防御力があるって言う話なのよ」

 これを聞かされた時は流石にそれはないでしょって思ったんだけど、少し考えてみたらちょっと納得、と言うのもカロッサさんのところで商材を見せた時のことを思い出したからなんだ。
 アダマンタイトで作った程度の篭手でさえあの反応だったんだから、ミスリル程度の防御力があるあの服ならそう考えられてもおかしくないのよね。

 ただエルシモさんが言うには、あの服の凄さはそこじゃないらしいのよ。

「おまけに布の服だから鎧のように重くない上に防御を優先すると、どうしてもおろそかにならざるを得ない移動時になる音も小さい。これは盗賊やレンジャーのような斥候や探索系の冒険者にとってはとんでもないアドバンテージになるらしいわ。その上嵩張らないから行商人が持ち運ぶにしても馬車のスペースを取らないから、もしあれを市場に安く流したら現在の防具産業が壊滅するって」

 会議室にいるみんなはあんな作業服程度でまさかって顔をしているけど、エルシモさんだけじゃなく収容所にいる他の人たちに聞いても同じ答えが帰って来たから、これって事実らしいのよね。
 農作業を始めた初日に岩ではじかれて飛ばしてしまったクワが他の作業をしている人の背中にあたってみんな大惨事を予感したのに、当たった本人は何かが当たってびっくりしただけだったのを見て戦慄したらしいわ。

 そして、彼らからするとこの世界基準で非常識なのはその作業服だけじゃないみたいなのよ。

「それにどうやら武器も同じらしくて、農作業に使っている一見ただの鉄でできているとしか思えないクワや鎌が、どれだけ長時間使おうが、長期間使おうが、刃こぼれ一つしないどころか切れ味がまったく変わらないと言うのは一体何の冗談かと聞かれたわ。驚かないでよ。この世界の武器って、毎日油を塗ったり、へこんだ所を修繕しないと使えなくなるそうなのよ」

 っ!?

 これを聞いたみんなは、あまりの驚きに言葉も無かった。
 それはそうだよね、私たちの使っている武器や防具って腐食系とか武器破壊系のような攻撃や、耐えられる限界を超えた高火力攻撃を加えられない限り壊れる事はないもの。

 それもそのはずで、もし戦闘を行うたびに武器や防具を修繕しなければいけないなんて事になったら、連戦できなくなってレベル上げもロクにできなくなっちゃうから、テンポが悪くてそんなゲーム、誰もやらないよね。
 そんな世界の法則に縛られた武器や防具を使っているのだから、私たちは一度作った装備を修繕した事なんて一度も無い。
 だからこそ、この事実を前に言葉が出ないほど驚いてるんだ。

「そんな・・・それじゃあうちの武器や防具を売ったりしたら」

「シャイナ、あなたの考えている通りよ。一度買えば半永久的に使える装備なんて流通させたら、装備を作っている産業は終焉を迎えるでしょうね」

 いや、武器破壊技はこの世界にもあるだろうからそれは言いすぎかもしれないけど、大打撃を受ける事だけは間違いないだろうね。
 だから当初からあった装備を売ると言う案も没だ。

「ねぇ、なら宝石を使った貴金属とかを売ったら? 何も効果を付与しなければただのアクセサリーとして売れるでしょ?」

「それも考えたんだけど、この世界の宝石の価値を考えるとねぇ。それに私たち基準で下手の物を作ったらすぐに国宝級になりそうだから、完璧にこの世界の価値を調べつくすまでは怖くて売れないわ」

 あやめの提案を聞いた私は、先日のロクシーさんの言葉を思い出して身震いする。
 あれをお見せしたのがロクシーさんしかいない時だったからよかったけど、もし皇帝陛下がご一緒の時だったらと思うと、もう作るたびにいちいちロクシーさんに確認でもして貰わなければ怖くて下手な所には出せないもの。

「むつかしいねぇ。じゃあ、あるさんはどんなものを売るつもりなの? それだとうちで売れるもの、ない気がするけど」

「そうねぇ、本来なら城の子たちの仕事を作る為に商売をするつもりだったけど、今はボウドアの館やイングウェンザー大使館、それにイーノックカウでもう一つ買った館があるからそこそこ仕事はあるのよねぇ。後は職人関係の子たちだけど、さっきも言ったように彼らが作ったものは売るわけには行かないし」

 あいしゃに言われて、はたと気が付いた。
 具体的に何を売ればいいかは一応考えてあったけど、その案だと職人たちは殆ど関係なくなるしなぁ。
 思わぬ落とし穴に、私は頭を抱えてしまう。

 ところが、考えてもいない所から援護射撃が飛んできた。
 それはなんと、いつもはあまり発言しないアルフィスからだった。

「ああ、職人の仕事に関しては心配しなくてもいい。この世界に来て色々と法則が変わった部分があるからその実験とかしてもらってるし、それにユグドラシルにはなかったり、この世界に来て効果が変質してしまった魔法の情報やスクロールが研究室やイーノックカウに配置されている奴らから送られてきてるから、それらを使った新しいマジックアイテムの開発実験にも人手がいるから、当分は仕事には困らないはずだからな」

 なんと、そんな事してたのね。
 それに研究室って、何時の間にそんなものを作ったンかしら? アルフィス、恐るべし。
 まぁ、彼は異形種だから表に出られないし、そんな事を始めるくらい暇だったんだろうなぁ。

 研究と言えば、私たちそのものはゲームの設定に縛られているけど、作ったものの中でマジックアイテム以外の物は確かにこの世界の物理法則に従ってるっぽい。
 サスペンションなんてその際たるものだし、馬車でマジックアイテムとあわせて使うとその運用効率が上がると言う結果も出てるんだよね。
 この様な機械的なものとの複合研究には時間と人手がいるから、そちらに着手しているのなら確かに職人に関しては仕事に困らないだろう。

「そうなの。ありがとう、アルフィス。それなら安心して私の考えている案を採用できるわ」

「それでアルフィン様、もう心は決まっている御様子ですが、イーノックカウにはどのようなものを出店なさる御考えなのでしょうか?」

 いよいよ私の意見と言う事で、今までだまって会議の様子を窺っていたメルヴァが私に質問した。
 会議に参加しているとは言っても、NPC三人は此方から聞かれない限り絶対に自分たちの意見を言わないから、一通り意見が出た後に私が発言しやすいように質問と言う形でサポートしてくれたんだと思う。

 そんなメルヴァの気遣いに感謝して、私は自分の意見をみんなに披露した。

「これはあくまで私の願望なんだけど、イーノックカウの中にボウドアの村の、カロッサさんの領地のアンテナショップを作ろうかと思う。まぁ実際に売るのは、私たちが提供した種子や苗から作られる野菜だったり、家畜の肉だったりにするつもりだけどね」


あとがきのような、言い訳のようなもの



 すみません、先週以上に短いです。
 ボッチを書き始めた頃以来じゃないかな? この短さは。
 本当はちゃんといつもと同じくらいになるはずだったのですが、オーバーロードの新刊を手に入れてしまった以上我慢できませんでした。

 それと来週なのですがゴールデンウィーク中は殆ど家にいないので書くことが出来ません。
 一応6日は家にいるのですが、5日は3〜4時間高速道路の渋滞の中を走らされてへろへろでしょうから書く事はできないでしょう。
 この様な理由ですので、すみませんが来週はお休みさせていただきます。

 さて、いよいよマーチャント(商業)ギルドらしい活動の開始です。
 元々ボッチプレイヤーの冒険は、最強なのに力には頼らずこの世界で生きて行くと言うお話なのでこれが本筋なんですよね。
 とは言っても、細腕繁盛記を長々とやる訳ではありませんけどね。

 すみません、その2
 朝、新幹線に乗る前にアップするつもりだったのをすっかり忘れていました。
 昨日読みに来ていただいた方々、申し訳ありません。
 東京で気が付いたのですが、どうしようもなかったので。
 表示は29日となっていますが、30日更新です。


第120話へ

オーバーロード目次へ